人物紹介|その生き方を知る

松本成美 1927(昭和2)年~2009(平成21)年

1927(昭和2)年、高知県高知市で生まれる。幼少のころ母親を亡くし母方の祖父母に育てられるが、1937(昭和12)年兵庫県姫路市に住む父親に引き取られる。1953(昭和28)年に旧制高知高校(現高知大学)卒業、結核の転地療養が目的で妻の親類がいる釧路管内標茶町に移住。教員として塘路小学校に赴任し、5年・6年複式学級の担任となる。その後、磯分内中学校、厚岸町の上尾幌中学校などを経て白糠町の白糠中学校、庶路中学校に勤務する。

北海道歴史教育者協議会に所属していた松本は、秩父事件顕彰運動の一環で飯塚森蔵を調査研究する。飯塚森蔵が秩父事件後に来道して後藤平吉と名乗り、白糠の泊別コタンでアイヌの人々に支えられながら余生を送ったことが調査で判明する。その飯塚森蔵の半生を構成劇「コタンに生きる-飯塚森蔵の生涯」として1975(昭和50)年秩父事件90周年記念白糠集会を皮切りに北見市、釧路市、秩父市などで上演。また、民衆史講座を開催する北見の民衆史運動に感化され、釧路支部主催のアイヌ民衆史講座を企画し開催する。その講座がやがてアイヌ民族との連帯運動、先住民族としての顕彰運動に発展、1977(昭和52)年に厚岸アイヌ民族弔魂碑と三浦政治顕彰碑が、1979(昭和54)年に白糠先駆者アイヌ弔魂碑が建立されるが、それらの運動にも常に関わっていた。

1978(昭和53)年に親交のあった貫塩喜蔵のアイヌ叙事詩「サコロペ」が道東アイヌ語の最初の本として出版、松本がアイヌ語の和訳を担当する。1979(昭和54)年には小助川濱雄を知る会を設立、事務局長として関連資料の出版に携わる。1981(昭和56)年に釧路で開催された歴史教育者協議会第33回全国大会では事務局長として奔走する。また、白糠地名研究会の成果を収録した本を相次いで出版し、1984(昭和59)年には白糠開基百年記念功労者表彰を受ける。

1986(昭和61)年教員退職後、北海道教育大学釧路校の非常勤講師となり、民族問題の講座を担当する。同年釧路アイヌ文化懇話会を設立、事務局長として同会を支え、会誌「久摺」の編集も担当する。1996(平成8)年に釧路アイヌ文化懇話会会長、同年設立された釧路アイヌ語の会会長に就任する。2005(平成17)年に発起人として吉良平治郎研究会を発足、吉良平治郎に関する資料収集・調査研究の末、市民劇「アイヌ逓送人吉良平治郎」の公演を成功させる。 また、1994(平成6)年に旗揚げした日韓・日朝の明日を考える「釧路かささぎの会」でも、副会長など役員を歴任する。

晩年は財団法人・アイヌ文化振興・研究推進機構からアイヌ文化アドバイザーに委嘱され、東京や札幌など各地で釧路のアイヌ文化を紹介する。2009(平成21)年釧路明輝高校のアイヌ文化授業の民間非常勤講師に委嘱されるが、10月22日播種性血管内凝固症候群のため82歳にて永眠。

用語解説

北海道歴史教育者協議会
正しい歴史教育の研究と実践を目的とし研究者と教員で構成された団体で、1949年に創立された。囚人労働、タコ部屋労働、朝鮮人・中国人強制連行、アイヌ問題などの事実を調査し、地域民衆の歴史の掘り起こしに取り組んだ。1884(明治17)年に起こった秩父事件の関係者・井上伝蔵と飯塚森蔵の行方を調査、民主主義の先駆者として顕彰する秩父事件顕彰運動を1970年代に展開した。
三浦政治
1923(大正12)年に永久保秀二郎の招きにより春採尋常小学校の校長に着任、3年間の在任だったがアイヌ教育の向上に尽力し、アイヌ民族との連帯を築いた。
小助川濱雄
白糠出身の郷土史家・歌人。1905(明治38)年に生誕、白糠村役場に勤務し、アイヌ民族への思いやりにあふれる作品を詠んだ。1935(昭和10)年に30歳で夭折。
釧路アイヌ文化懇話会
1986(昭和61)年に創立された市民研究団体。アイヌ文化を研究する例会(講座、フィールドワークなど)を開催、会員の研究成果をまとめた会誌「久摺」を発行。2003(平成15)年にアイヌ文化奨励賞を受賞。
釧路アイヌ語の会
1996(平成8)年に創立されたアイヌ語の学習会。アイヌ語の基礎知識と道東アイヌ語の方言を学ぶ講座を開催。
吉良平治郎
1922(大正11)年に猛吹雪のなか釧路町宿徳内原野で郵便物を守り殉職したアイヌの郵便物逓送人。

参考文献

  • 久摺第十三集. 釧路アイヌ文化懇話会. 2010, p.191.
  • 掘る 北海道の民衆史掘りおこし運動. 北海道歴史教育者協議会. あゆみ出版. 1977. p.214.
  • コタンに生きる アイヌ民衆の歴史と教育. 松本成美. 徳間書店. 1997, p.319.
  • 釧路アイヌ文化懇話会20周年記念誌 二十年のあゆみ. 釧路アイヌ文化懇話会. 2006, p.63.
  • 滑走路と少年土工夫 朝鮮人強制連行の掘り起こし. 松本成美. 草の根出版会. 1996, p.134.

市立釧路図書館3階郷土行政資料室では2012年4月よりご寄贈いただいた故松本成美氏の所蔵資料を常設コーナー「松本文庫」にて公開しています。一部閉架書庫に保管しているものもございますので、本棚にお探しの資料がない場合はスタッフにお問い合せください。